「お前さん、聞こえるかい?除夜の鐘だよ」
・・・この季節になると、思い起こされるのが、「師走」「忠臣蔵」「年越しそば」などなどのフレース、そして、古典落語「芝浜」です。
噺家さんや落語ファンでは、知らない人のいない演目の一つが、この「芝浜」です。
今も昔も、お酒の好きな人というのはいらっしゃるようです。
ある男が海辺に立っていますと、足元に一匹の蟹が横歩きでなく、縦歩きをして近付いてきました。
「おや、この蟹は珍しいね。横に歩くんじゃなくって、縦に歩いてらぁ」
すると蟹がこう答えます。
「はい、少し酔ってますから・・・」
という小噺もあります。
「おや、あなた真っ昼間から酔ってますね」
と酒屋の主人が酔っぱらいに声をかけました。すると酔っぱらいは
「いやぁ、あたしは酒が大好きでね。酒屋さんのそばで匂いを嗅いでるだけでも、酔っちゃうんです」
などという、お酒にまつわる小噺があります。
お酒にまつわる小噺だけでなく、失敗談もあります。
この「芝浜」の主人公である魚屋の勝五郎は、大の酒好きです。酒がなくては生きていけないというほどのウワバミでした。
江戸時代の魚屋さんは朝早くから、天秤棒を担いで、魚河岸で魚を仕入れて、それを担いで、行商をしていくのです。魚や野菜を載せた天秤棒を担いで売り歩く人たちのことを「棒手振り(ぼてふり)」といいました。
そんな棒手振りたちの売り場は、主に長屋。今でいうところの住宅街に行くと、奥さん連中がこぞって、その日の夕食である魚を買い求めるということですが、その際に、魚屋さんはサービスとして、その場で捌いてくれるのです。
つまり、魚屋さんは、朝に強く、足腰が強く、魚を捌く腕も求められていたのです。魚屋さんの担ぐ天秤棒の糸桶には水が張ってあり、そこに魚が入っていることによって、一定の鮮度が保たれるのですが、これは、かなりの重労働です。イメージとしては、「一心、鏡の如く」でお馴染みの魚屋・一心 太助が、これにあたります。
そして、もちろん一日中、冷蔵技術のない時代の魚を売り歩くのですから、早く売らなければなりません。
魚屋さんとしては、昼までにはなんとしてでも売りたいのですが、相手は町人の奥さんたちですから、一筋縄ではいきません。昼近くになると、当然、鮮度は落ちています。
「そんな鮮度の落ちた魚を売るのは、お客さんに申し訳が立たない・・・」というよりは、江戸っ子気質からくる「そんな活きの悪い魚を売ったら、俺っちの名折れになる」という感覚もあったのではないか、とも思います。
ともかく、昼には魚は値段が下がります。値は下がったものの、若干、鮮度の落ちた魚です。それでも、奥さん連中はなくなるまで、買ってくれるということになります。
現在でも、スーパーなどで試食コーナーがありますが、そこで、試食をして、その商品を買っていく率が圧倒的に高いのが女性だそうです。
昭和の高度経済成長期、これから日本は立て直すぞ、という時代にも、行商の文化は生き続けていました。当時は、自家用車を持っている家が少なかった時代で、近所にコンビニもなければ、スーパーもありません。
そこで、行商のおばさんたちが活躍していました。例えば、関東地方に住んでいた人であれば、東北地方の漬物、九州地方の干し魚などなど、その地域では手に入りにくい商品を売っていくのですが、ここで、買い手の奥さんたちに、先述の試食コーナーの心理状態が働きます。
「せっかく、来てくれたのだから、買わなきゃ申し訳ない」という感覚が働き、商売として成立していたそうです。この感覚が、江戸時代の奥さんたちにもあったのです。正確にいえば、江戸時代から、昭和・平成にまで続いていたということです。
腕のいい魚屋さんは午前中に、全部売り払ってしまうことができたそうです。魚屋さんも千差万別で、仕入れの際に魚の善し悪しを見抜き、なおかつ、捌きが良ければ、贔屓にしてくれるお得意先も出てくるのです。
主人公の勝五郎もその一人でした。ところが、この勝五郎。せっかく、午前中に魚を全部売ったにも関わらず、その売上金でもって、仲間と昼間からお酒を呑むのです。
「ちょいと一杯のつもりで呑んで・・・」という気持ちも分からなくはありませんが、ほどほどに・・・、それすらできない有様。
その内、だんだん朝も二日酔いで起きれなくなり、一般的に朝の四時頃に魚河岸に向かうところを、九時過ぎに魚を仕入れ、鮮度が落ちて痛みだしたものを売るようになったのです。もちろん、お客は正直です。
ある時、お得意先のご主人が
「なんだね、勝や」
「・・・へい」
「お前、この頃めっきり腕が落ちたんじゃないか?」
「そんなこたぁ、ありやせん・・・」
「今まで、あたしはお前の魚を食べてきたが、いや実に旨かった」
「ありがとうごぜえやす」
「ところが、近頃のお前の魚はなんだ。舌先がピリッとなるんだ、おまけに生臭いときている。あたしは、魚を食べていて、初めてだったよ」
と、このように様々なお得意先から、突き上げを喰らって、勝五郎はとうとう魚河岸にすら、行かぬ始末。それまで、貯めていた貯金も徐々に減り、それまで黙って亭主を見守っていた勝五郎の女房も、ついに苦言を呈します。
年の瀬も迫った、ちょうど今ぐらいの時期です。そんな冬の夜明け前でした。
・・・この続きは次回ということにさせて頂きます。
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